ドバイのストリートカルチャーの祭典「ソールDXB」とは

ドバイなどの中東地域は近年、ラグジュアリーブランドにとって重要な市場となっているが、ストリートウエアやスポーツブランドにとっても同市場は非常に魅力的だ。ドバイ市場は若年層が多いため、ブランドは彼らとより直接的に結び付く方法を探している。

その答えの一つが「ソールDXB(SOLE DXB)」だ。スニーカー、音楽、アート、ライフスタイルなどを融合したイベントで、広告代理店サーチ・アンド・サーチ(SAATCHI & SAATCHI)でクリエイティブを担当していたフセイン・モルーボイ(Hussain Moloobhoy)と知人のラジャット・マロートラー(Rajat Malhotra)を含む4人が集まって2010年にスタートして以来、毎年開催されている。18年は12月6~8日に開催。

最初は短編映画の試写会といった小規模なイベントだったが、スニーカーを履いていることが参加条件だったこともあり、マロートラーらはドバイにヒップホップやスニーカーに興味がある消費者がたくさんいることに気づいたという。イベントの規模は次第に拡大していき、17年は約1万4000平方メートルの会場におよそ1万6000人の参加者が集まった。「アディダス(ADIDAS)」や「ナイキ(NIKE)」などの大手スポーツブランドの他、ラグジュアリーECの「ファーフェッチ(FARFETCH)」が出店。またラグジュアリーブランドの「ケンゾー(KENZO)」と「ディオール(DIOR)」が17年に初出店し、「ディオール」は18年も出店する。

「市場が比較的小さいため、最初はブランドをどう説得するかを考える必要があったが、ここ3年ぐらいで風向きが変わってきた」とマロートラーは語る。「世界中の若者が同じメディアを見て育っているので、ドバイでも世界と同じブランドの需要があり、ブランド側もより多くの製品をドロップ(発売)するようになってきた。それに加え、僕たちとしては地元ブランドを発掘し、プラットフォームを提供したいと思っている」。過去のイベントでは、80~90年代のヒップホップやグライム、日本のファッションなどがテーマだったが、今年は南アフリカのクリエイターをフィーチャーする。また、バスケットボールとスニーカー文化に関するドキュメンタリー映画「ロックラバー45s(Rock Rubber 45s)」も上映する。イベントの入場料は、1日パスがおよそ55ドル(約6215円)、ウイークエンドパスが同80ドル(約9040円)。

マロートラーによれば、「ソールDXB」の参加者の72%が18~34歳で、男女比はそれぞれ54%と46%とほぼ半々だ。「ファッション、音楽、そしてワークショップを通じて進化を見せていきたい。このイベントは特定の地域向けではないし、ドバイには世界中の人たちが集まる。音楽やアートのプログラムも、伝統的なものと現代的なものを混ぜている」。なお、17年のパネルディスカッションには藤原ヒロシが登壇している。

「アディダス」は初回から出店しており、今年は4フロア分のスペースを確保。うち1フロアは若い女性をターゲットとした“ファルコン(FALCON)”を中心に陳列し、ストリートサッカーであるパナ・ゲーム用のケージを設置する。アルノー・ジャンジラール(Arnaud Jeangirard)「アディダス」スタイル・ビジネスディレクターは、「『ソールDXB』にはストリートカルチャーの全てがある。流行に敏感な消費者が集まるので、ブランドにとっても出店するメリットがある。消費者にブランドの世界観やストーリーを伝えて、“体験”を提供することは非常に重要だが、地元シーンとのつながりがあるこのイベントはその素晴らしい機会だ」と述べた。

「ファーフェッチ」は、スニーカーのリセールストア「スタジアム・グッズ(STADIUM GOODS)」と提携して「ソールDXB」で限定品のスニーカーを販売するなど、実店舗とECの融合を実現している。「ファーフェッチ」は中東での売り上げを開示していないが、他の地域より若く、モバイルで買い物する消費者が多いとコメントした。

トルコのストリートウエアブランド「レス ベンジャミンズ(LES BENJAMINS)」は、19年春夏コレクションを自社旗艦店より先に「ソールDXB」で発売する他、トルコのグラフィティ・アーティストとのワークショップを開催する。同ブランドのブンヤミン・アイドゥン(Bunyamin Aydin)創業者兼クリエイティブ・ディレクターは、「売り上げも重要だが、若いデザイナーやアーティストを支援し、若者に希望を与えることが何より大切だ。ストーリーテリングはリアルである必要があるし、マーケティングではごまかせないものだ」と説明した。

オルセン姉妹の「エリザベス アンド ジェームス」がお手頃価格にリニューアル

アシュリー・オルセン(Ashley Olsen)とメアリー・ケイト・オルセン(Mary-Kate Olsen)姉妹のアパレルブランド「エリザベス アンド ジェームス(ELIZABETH AND JAMES)」が、米百貨店コールズ(KOHL’S)との独占契約を結んだ。

オルセン姉妹はメインブランドとして「ザ・ロウ(THE ROW)」を手掛けており、アメリカファッション協議会(COUNCIL OF FASHION DESIGNERS OF AMERICA)による「CFDAアワード」を3度受賞している。「エリザベス アンド ジェームス」はセカンドラインにあたるが、サックス・フィフス・アベニュー(SAKS FIFTH AVENUE)やブルーミングデールズ(BLOOMINGDALE’S)、ニーマン・マーカス(NEIMAN MARCUS)などの米高級百貨店や、ECサイト「ネッタポルテ(NET-A-PORTER)」などで2018年秋冬まで販売されていた。今回の提携を機に手頃な価格帯のブランドにリニューアルし、新コレクションは19年のホリデーシーズンに向けて11月頃からコールズの店頭とECで独占的に販売される。

メアリー・ケイトは、「『エリザベス アンド ジェームス』を、品質やフィット感を犠牲にすることなく、洗練されたファッションを手の届く価格帯で提供するライフスタイルブランドにしたい。ブランドの新たな時代が幕を開けるにあたって、コールズは最適なパートナーだと思う。同百貨店の充実した店舗網とECにより、さらに広い消費者層に製品を届けられる」と述べた。

アシュリーは、「コールズはオムニチャネルへの取り組みなど、画期的な戦略で成功している。以前から、『エリザベス アンド ジェームス』はもっと幅広い顧客層にアピールするブランドだと思っていたが、コールズとの提携によってそれが実現できる。メアリー・ケイトも私も、顧客に新たな買い物体験を提供できることをうれしく思っているし、ライフスタイル製品なども作りたい」とコメントした。なお、姉妹は宣伝にも積極的に関わり、SNSで発信することはもちろん、イベントなどにも登場する予定。ほかのブランドとのコラボレーションなども前向きに検討しているが、まだ公表できる段階にないという。

ミシェル・ガス(Michelle Gass)=コールズ最高経営責任者は、「デザイナーとしてファッション業界で高く評価されているメアリー・ケイトとアシュリーのオルセン姉妹と提携し、『エリザベス アンド ジェームス』を全米の顧客に届けることができてうれしく思う。同ブランドは新たな顧客、特にミレニアル世代を引き付けてくれるだろう」と述べた。同ブランドの価格帯はまだ決定していないが、トップスやジーンズ、ワンピースを40~70ドル(約4440~7770円)で販売している「LC ローレン・コンラッド(LC LAUREN CONRAD)」や「シンプリーヴェラ ヴェラ・ウォン(SIMPLY VERA VERA WANG)」など、コールズで取り扱っているほかのブランドと同程度もしくはやや高めが想定されている。

「エリザベス アンド ジェームス」は今後も独立した事業として経営され、創業者兼クリエイティブ・ディレクターであるオルセン姉妹がコレクションのデザインや開発を行うが、生産や管理はコールズが担当する。取り扱い分野はアパレル、アクセサリー、ビューティからスタートし、その後は顧客の投票によって変更していくほか、30日ごとに新たな製品を投入するという。なお、同ブランドで唯一の直営店がロサンゼルスのショッピングモール、ザ・グローブ(THE GROVE)にあったが、現在は閉鎖されている。

カンナビス とリメイクデニムを発売

ビンテージアイテムをリメイクするウィメンズブランド「77 サーカ(77 CIRCA)」は、東京・新宿のセレクトショップ「カンナビス レディース(CANNABIS LADIES)」内にショップインショップを5月13~28日に開き、限定のコラボコレクションを発売する。

3度目となる同コレクションは、“WRAP UP(くるまる)”がテーマ。アフガンストールをキーアイテムに、すべて古着のデニムジャケットとデニムパンツをベースにしている。デニムジャケットの襟部分にアフガンストールを縫い付けてフードにリメイクしたり、デニムパンツのフロントにアフガンストールを縫い付けて左右で異なるデニムを組み合わせたりするなど、すべて1点モノのアイテムとなる。

「77 サーカ」は、“1977年前後に生まれた私たちは、私たちに共感していただける方々と共に、それぞれの背景、文化を反映し、形を産み、選別し、リリースしていきます”をコンセプトに2014-15年秋冬にスタート。ブランド名の“サーカ”は“約”“およそ”“頃”を表すラテン語と、森山直樹デザイナーの生まれ年である1977年に由来する。

期待に応えたエディ 2シーズン目の「セリーヌ」がスマッシュヒット

セリーヌ(CELINE)」は1日、エディ・スリマン(Hedi Slimane)による2シーズン目のウィメンズコレクションを発表した。賛否両論の嵐が吹き荒れた1シーズン目とはガラリと内容を変え、その方向転換は端的に言えば大成功。黒とスキニーとミニスカートとロックから離れて、ブラウン系の上品かつフレッシュな「セリーヌ」ウーマンへ。“これでどうだ!”と言わんばかりの、パワフルなエディ流「セリーヌ」は今後、マーケットをリードしていきそうだ。

招待状に同封されていたのはファーストシーズン同様、分厚いノート。前回はそこにエディが撮影した夜のパリの風景写真を載せていた。今回は写真はなく、7色の紙。暖かみのあるブラウン系に金と銀を加えたカラーパレットで、そこに黒はない。そのメッセージがある意味すべてだった。

“パリジェンヌのワードローブはミニマルで着回し上手”などと言われるが、新生「セリーヌ」のアイテムのラインアップも明快で、“これさえ着ればエディ流グッドガールになれる”定番のワードローブが厳選されている。黒はほぼなく、全編暖かみのあるカラーパレットでまとめた。

中でもキーアイテムは膝下丈のキュロット。超ミニ丈を好んできたエディのこれまでの作風からは大転換だ。メンズスーツに使うようなウールのチェックやヘリンボーン、レザー、デニムなどとバリエーション豊かな生地で、時にプリーツを入れるなどゆとりのあるシルエットがコーディネートの核となっている。

キュロット以外のワードローブも明快だ。ボトムスはプリーツスカートに、洗いをかけたデニム。インナーは襟を小さなフリルで飾ったシャツかボウタイブラウス、もしくはハイネックセーターで、いずれにしても胸元は開けない。アウターはヒップが隠れる丈のテーラードかノーカラーのジャケット、トレンチコートにライダース、ピーコート、スタジャン、極寒用にムートンのコート。そして、必須アイテムであるプリントの膝下丈ワンピースを数枚。後半には夜のシーンに映える総スパンコール刺しゅうのシリーズも登場するがアイテム自体はデイウエアと同じだ。

アクセサリーは、レトロな金具の細ベルトが非常に重要で、加えて華奢なゴールドのネックレスと首もとを彩るレトロなスカーフ。バッグは小ぶりのショルダーがメインで、ニーハイブーツで素足は決して見せない。そして、唯一ロックなティアドロップのサングラスでスタイリングを完成する。

前季のデビューコレクションは、エディの前職である「サンローラン(SAINT LAURENT)」をそのままスライドしたような内容だったが、今回はパリのマダムに愛されてきた上品な「セリーヌ」の要素をエディ流に解釈。前任者フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)とアプローチの方法は異なるが、ブランドのDNAの再解釈という、クリエイティブ・ディレクターに期待される役割をきっちりやり遂げた。ただし、ラストルックだけは前シーズンから提案するユニセックスなパンツスーツで意地もちらり。それも含めてマーケットから見ても売りやすいアイテムだけに、エディが提案する現代のパリジェンヌのワードローブは今後、トレンドをリードする存在になりそうだ。

「ディオール」メゾンコード研究 第4回“日本からのインスピレーション”

歴史あるブランドはアイコンと呼ばれるアイテムや意匠を持ち、引き継ぐ者はそれを時代に合わせて再解釈・デザインする。アイコン誕生の背景をひも解けば、才能ある作り手たちの頭の中をのぞき、歴史を知ることができる。この連載では1947年創業の「ディオール(DIOR)」が持つ数々のアイコンを一つずつひも解いてゆく。奥が深いファッションの旅へようこそ!

1959年、皇太子の明仁親王(現・天皇陛下)の婚礼に際して「ディオール」は美智子皇太子妃(現・皇后)のために3着のドレスをデザインした。ムッシュ・ディオールから引き継ぎ、当時のウィメンズ・コレクションのアーティスティック・ディレクターであったイヴ・ サンローランが制作した PHOTO : 毎日新聞社 / アフロ

「ディオール」と日本が深い関係にあることは、創業デザイナーのクリスチャン・ディオール(Christian Dior)の回顧録からもよく分かる。ムッシュ・ディオールは子ども時代を過ごしたノルマンディーにある自宅の1階の風景を振り返り「天井まで届く大きな日本画が階段の壁を飾っていました。そこに広がる歌麿や北斎はさながら私のシスティーナ礼拝堂。何時間もじっくりと眺めていた子どものころの姿が目に浮かびます」と書いており、少年の審美眼を育んだ家庭環境の一角に日本の伝統文化が息づいていたことをその言葉から知る。

ムッシュは、コレクションの着想源としても日本を度々取り上げている。1952年秋冬コレクションではドレスのひとつに「東京(TOKYO)」と名づけ、53年のオートクチュールでは「ジャルダン・ジャポ(日本庭園)」と名づけたアンサンブルを披露。さらに54年秋冬コレクションでは京都の名門・龍村美術織物の生地で制作した「歌麿(UTAMARO)」と名づけたアンサンブルを発表している。同時期には「ディオール」のショーのためにモデルが来日したり、アズマカブキが渡仏したりするなど文化交流も深めてきた。

その後引き継いだ代々の「ディオール」のクチュリエたちもまた、日本から着想を得たコレクションを制作してきた。現アーティスティック・ディレクターのマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)が、2017年4月に「ハウス オブ ディオール ギンザ」のオープンを記念して、17年春夏オートクチュールを「ギンザ シックス」の屋上で開催したことは記憶に新しい。

2019年プレフォール・メンズ・コレクションから空山基の作品の象徴的アイコンであるT-REXをプリントしたスリッポン。「ハウス オブ ディオール ギンザ」限定で4月29日から販売。1色展開。11万円

そして18年11月、「ディオール」がメゾン史上初となるメンズのプレ・フォール・コレクションを東京で開いたことは、 改めてメゾンと日本の関係の深さを印象づけることとなった。メンズアーティスティック・ディレクターのキム・ジョーンズ(Kim Jones)は元々日本通として知られるが、「特に今回は、日本からの影響を強く表現した」という。「僕の“日本愛”や、ムッシュと日本の絆、彼の愛情が生み出した1950年代のものと思われるスケッチ」などの要素が詰まっていると語るキムはそれらに十分な敬意を払いつつ、現代の男性の心を捉える服やバッグを生み出した。2019年プレフォール・ コレクションではアーカイブの要素に加えて、日本人現代アーティスト空山基の作品から着想を得てメタリックな素材使いなどデザインへ落とし込んだ。空山作品である巨大な女性のフィギュアは、演出の要ともなり会場を近未来感で包んでいた。メゾンの歴史に立脚しながら時空を超えて生まれる新しいデザイン。それは、「ディオール」と日本の関係に新しい1ページが刻まれた瞬間でもあった。